コンプライアンス研修 (3) ハラスメント
そもそもハラスメント対応はなぜ難しい?
■何がハラスメントに該当するか分からない
■当事者にハラスメントの自覚がない
■自分の時代は当たり前(年代ギャップ)
■会社の内外を問わず発生する
パワハラとは?
職場におけるパワーハラスメントは,職場において行われる…
① 優越的な関係を背景とした言動であって
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③ 労働者の就業環境が害されるもの
①~③の3つの要素を全て満たすもの
※①職場内の優位性
パワーハラスメントという言葉は,上司から部下へのいじめ・嫌がらせをさして使われることが多いが,先輩・後輩間や同僚間,さらには部下から上司に対して行われるものもある。「職場内の優位性」には,「職務上の地位」に限らず,人間関係や専門知識,経験などの様々な優位性が含まれる。
※②業務の適正な範囲
業務上の必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも,業務上の適正な範囲で行われている場合には,パワーハラスメントにはあたらない。
パワハラの類型
1)身体的な攻撃 ~暴行・傷害
2)精神的な攻撃 ~脅迫・名誉毀損・侮辱・暴言
3)人間関係からの切離し ~隔離・仲間外し・無視
4)過大な要求 ~業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害
5)過少な要求 ~業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること
6)個の侵害 ~私的なことに過度に立ち入ること
パワハラは誰がどんな責任を負う?
□パワハラの行為者本人
◆民事上の責任として損害賠償を請求される。
◆刑事罰に課せられる。
ex,名誉毀損,侮辱罪,脅迫罪,暴行罪,傷害罪等
◆社会的制裁
ex,減給,降格,譴責,出勤停止,諭旨解雇,
懲戒解雇等の懲戒処分
□事業主
◆民事上の責任として損害賠償を請求される。
◆行政上の処分。
◆社会的制裁
ex,マスコミ,ネットでの風評被害
パワハラの事例
事例①
質問
課長Aは仕事の覚えが悪い部下Bに対し、足を蹴っ飛ばしたり、罵声を浴びせている。 周囲の職員から見てもとても不愉快で、「課長Aと同じ職場で働きたくない」との 声も出ている。
※部下Bは、自分は仕事ができないので、課長Aに叱責されても仕方がないと考えており、社内の通報窓口にも申告していない。
解答
①優位性:上司・部下の関係です。
②業務の適正な範囲:課長Aの「足を蹴っ飛ばす」「罵声を浴びせる」などの行為は、業務の適正な範囲を超えた言動です。
③就業環境:被害者はパワハラと感じていなくても、周囲の職員がとても不愉快で同じ職場で働き たくないと感じており、就業環
境を害しています。
事例②
質問
課長Aは、部下に対して、よく「アホ!」「ボケ!」などと発言をしていた。課長Aは大阪出身で、親しみを込めたつもりだったが,東京出身の部下Bにとっては、課長Aの言葉遣いは聞き慣れないもので、また仕事量も増え責任も増す中で、部下Bは課長Aの言葉に真剣に悩むようになり、出社できなくなった。
※課長Aは周囲からは、「言葉は荒いが愛のある指導をする課長」と親しまれていた。部下の相談に親身に乗るなど面倒見も良く、(課長Aの上司の)部長からの信頼も厚かった。
解答
①優位性:上司・部下の関係です。
②業務の適正な範囲:「アホ!」「ボケ!」
などは業務上不適切な言葉です。
③就業環境:このことで部下Bは出社できな
くなるなど就業環境に悪影響を与えている。
事例③
質問
部下Aは業務成績が振るわず、課長Bから指導を受けていた。Aに対する会社の評価は、ここ数年間悪化していた。今年度も成果が顕れず、課長Bは部下Aに以下のメールを送信した。「全くやる気が伝わってきません。当課にとっても、会社にとっても損失そのものです。」その際のメールの宛先には、部下A以外の社員も含まれていた。また本文は、赤字で且つ大きめのフォントが使われていた。部下Aは精神的につらくなっていった。
※今までの人事考課の過程で、部下Aと課長Bの面談は数回行われており、両者の間にはそれなりの緊張関係はあった。
解答
①優位性:上司・部下の関係です。。
②業務の適正な範囲:人格を否定するようなメールで業務の適正な範囲を超えています。さらに赤字で大きめのフォントの文字を使うなど不必要に強調されていて、送付先が課員全員に指定されています。
③就業環境:部下Aは辛い思いをしており職場環境を害しています。さらに課員全員にメールを送ることで、他の課員の職場環境も害しています。
事例④
質問
ベテランで担当事務を最もよく知っている社員Aが新任課長Bに対し机をたたきながら「役立たず」「こんな仕事もできないのか、給料泥棒」「課長なら仕事しろ」と他の社員がいる前で大きな声で暴言を吐いている。
課長Bは追い込まれた気分になり、仕事に集中できなくなってきた。
※社員Aは仕事が出来るが言葉遣いが悪く、自分は完璧だとの自負があり、役職に関係なく意見が合わない者や自身の考えと違う行動をとる者に対しては罵倒する傾向がある。課長は3人目であり、前任者は1年で異動した。
解答
①優位性:業務知識が豊富であるという優越的な立場です。
②業務の適正な範囲:人格を否定する内容であり業務の適正な範囲を超えています。
③就業環境:課長Bは仕事に集中できなくなるほど精神的に追い込まれており、就業環境を悪化させています。
パワハラ~具体的対策
予 防
①トップのメッセージ
②ルールを決める
③実態を把握する
④教育する
⑤周知する
解 決
⑥相談や解決の場を設置する。
⑦再発防止のための取組
①トップのメッセージ
◆パワハラは全従業員が取り組む重要な会社の課題であることを明確に発信する。
◆パワハラ防止がなぜ重要なのか,その理由も明確に伝える。
◆メッセージの発信とともに,具体的活動が早期に実施できるよう,準備をしておく。
【ハラスメントについて】
ハラスメント行為は人権にかかわる問題であり,従業員の尊厳を傷つけ職場環境の悪化を招く,ゆゆしき問題です。当社は,ハラスメント行為は断じて許さず,すべての従業員が互いに尊重し合える,安全で快適な職場環境作りに取り組んでいきます。
このため,管理職をはじめとする全従業員は,研修などにより,ハラスメントに関する知識や対応能力を向上させ,そのような行為を発生させない,許さない企業風土づくりを心がけてください。
令和元年○月○日
株式会社○○ 代表取締役社長△△△△
②ルールを決める
◆労働協定や労使協定などでルールを明確して,労使一体で取組をする。
◆相談者の不利益取り扱いを禁止することを明確化する。
◆ルールはわかりやすく記載する。
◆就業規則変更の場合には,労働組合や労働者の代表の意見を聴いて変更する。
◆罰則規定の適用条件や処分内容は明確にする。
③実態を把握する。
◆社内アンケートを実施する。
◆匿名が望ましいし,誰が記載したか詮索しないことを約束する。
◆相談窓口の紹介も有益。
④教育する
◆社内研修を定期的に実施する。
◆管理監督者と一般従業員に分けた階層別研修が有益。
◆勉強会や専門家を招いた研修も効果的。
⑤周知する
◆会社の方針やルール,相談窓口等を全社員に周知徹底する取組みを行う。
◆トップのメッセージを掲示する。
◆ポスターを掲示する。
◆朝礼や社内報等で案内する。
⑥相談や解決の場を提供する。
⑦再発防止策の検討。
◆相談窓口を設置する。
◆相談しても不利益な取り扱いをうけないようにする。
そして,そのことを周知する。
◆相談対応は二次被害を起こさないように特に慎重に行う。
◆懲戒処分等は専門家の意見も聞きながら行う。
~具体的な解決の流れ~
(1) 相談窓口
(2) 事実関係の確認
(3) 行為者・相談者へのとるべき措置を検討
(4) 行為者・相談者へのフォロー
(5) 再発防止先の検討
ハラスメント防止対策とSDGs
ハラスメント防止対策をするメリット
■採用力強化・人材流出の回避
ライフイベントに配慮した制度等
■リスクを回避し企業の成長へ
社会的信用損失を回避 長期的人材育成
働きがいも 経済成長も
投稿者プロフィール
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弁護士法人山田総合法律事務所 代表弁護士
平成8年 最高裁判所司法研修所入所(50期)
平成10年 弁護士登録
福岡県弁護士会所属